『鬼ノ哭ク邦』の重厚なストーリー、特に物語の根幹をなす「輪廻転生」の仕組みやラスボスの真意について、クリア後もスッキリしないというプレイヤーは少なくありません。この記事では、一見すると救済に見える輪廻転生がなぜ絶望を生むのか、そしてラスボスである鬼巫女サラが本当に望んでいたことは何だったのか、その複層的な物語構造の理解が深まるヒントを解説します。ゲームが苦手なメリと、イマドキな高校生ケンの対話を通して、この難解な物語の核心に迫っていきましょう。
ねえケン、鬼ノ哭ク邦のストーリー、クリアしたんだけど…なんだかよく分からなかったよー。輪廻転生って、いいことじゃなかったの? なんで鬼が生まれちゃうの? ラスボスの人が何をしたかったのかも、ふわふわしてて…。
あー、あの話は普通にプレイしてると混乱するよな。まず大前提として、お前が信じてた輪廻転生は全部ウソだ。あれは死んだ人を救うためのシステムじゃねえ。
ええーっ!? うそなの!? じゃあ、カガチたち逝ク人守リのお仕事って、一体何だったの?
「鬼」を育てるための仕組みだ。人が死ぬ時に生まれる「絶望」を集めて、鬼をどんどん強くするためのシステムだった。つまり、カガチ達は良かれと思って、邦を滅ぼす鬼の育成を手伝ってたってわけだ。皮肉な話だろ。
えええええ! そんなのってないよー! じゃあ、ラスボスの鬼巫女サラは、世界をめちゃくちゃにしたかったってこと…?
そこがややこしいんだよ。サラの本当の目的は、その「終わりなき絶望の循環」自体をぶっ壊すことだった。人がいる限り鬼が生まれ続けるっていう矛盾したシステムを、根本からリセットしたかったんだ。
むむむ…? 自分で作った仕組みを、自分で壊したかったっていうこと? なんだかすごく難しいね…。
サラ自身も迷ってたんだよ。その迷いから生まれたのが、主人公のカガチだ。もっと言うと、カガチはサラの「良心」みたいな部分が分離した存在。だからカガチとサラは、元々一人の人間だったってことになる。
わー! そうだったんだ! だから二人はなにか通じ合うものがあったんだね! ちょっとだけ分かってきたかも!
まあ、それでも描写不足で分かりにくいって意見は多い。哲学的で重いテーマだからな。人を選ぶのは確かだ。
でも、ちゃんと知るとすごく深いお話なんだね! もう一回、物語のことをちゃんと考えてみたいな!
そう思うなら、下に重要なポイントを整理しといてやる。これを読めば、ごちゃごちゃした関係性も少しはマシになるだろ。ちゃんと読んどけよ。
「鬼ノ哭ク邦」の物語を紐解く3つのポイント
偽りの救済「輪廻転生」の真実
- 信じていた「来世への救い」は、実は絶望を集めるための巧妙な罠だったことが分かる
- 逝ク人守リの崇高な仕事が、皮肉にも世界を滅ぼす手伝いであったことを理解できる
- なぜ人がいる限り鬼が生まれ続けるのか、その根本的な仕組みが明らかになる
『鬼ノ哭ク邦』の世界では、「死者の魂は輪廻転生によって来世に生まれ変わる」と信じられており、死を悲しむことは死者を現シ世に縛り付ける禁忌とされています。プレイヤーが操作する主人公カガチをはじめとする「逝ク人守リ」の仕事は、来世へ旅立てずにいる魂「迷イ人」を導く、救済者としての役割を担っていました。
しかし、物語が進むにつれてこの世界の常識は覆されます。輪廻転生システムは、魂を救済するためのものではなく、人が死ぬ際に生まれる「強い負の感情や未練(=絶望)」を効率的に刈り取り、それを糧として「鬼」を育てるための巨大な装置だったのです。つまり、逝ク人守リが迷イ人を来世へ導く行為は、結果的に鬼の成長を手助けする行為に他なりませんでした。「人が存在する限り絶望は生まれ、その絶望が鬼を生み、いずれ人を滅ぼす」という、出口のない矛盾を内包したシステムこそが、この世界の真の姿なのです。
ラスボス「鬼巫女サラ」の本当の願い
- ラスボスが単なる悪ではなく、絶望の連鎖そのものを断ち切ろうとしていたことが分かる
- 主人公カガチが、ラスボスの「良心」から生まれた半身であるという衝撃の事実を理解できる
- ヒロインのリンネとラスボスであるサラが、同一人物の前世と現世の関係であることが分かる
この絶望の循環を作り出し、幾度もの転生を繰り返して鬼を成長させてきた元凶こそが、ラスボスである「鬼巫女サラ」です。彼女は物語のヒロインである「リンネ」の前世でもあります。しかし、彼女の真の目的は、世界の単純な破壊ではありませんでした。
元々一人の存在であった鬼巫女は、「人が鬼を生む」というシステムの矛盾に苦しみ、迷い、その答えを求めるために自らの魂を二つに分けました。その片割れ、サラの「良心(善性)」から生まれた存在こそが、主人公カガチ(および黒夜叉ソウジュ)なのです。
サラの本当の願いは、自らが作り出したこの「終わりなき絶望の循環」を、輪廻転生の理ごと破壊し、世界を根本から変革することでした。彼女は破壊者であると同時に、矛盾からの解放を渇望する救済者でもあったのです。
プレイヤーに託された「世界の選択」
- 物語の結末が、世界の未来をプレイヤー自身が決める重い選択に基づいていることが分かる
- 3つのエンディングがそれぞれ何を意味しているのか、その思想的な違いを整理できる
- この物語が「救いと絶望」という哲学的な問いを投げかけていることを深く理解できる
物語の終盤、プレイヤーは「鬼を倒すには、鬼を生み出す元凶である人間そのものを滅ぼすしかない」という究極の矛盾を突きつけられます。そして、この矛盾した世界をどうするのか、3つのエンディングに繋がる重大な選択を迫られます。
選択肢 | エンディング名 | 選択が意味するもの |
---|---|---|
輪廻転生の理を守り人と生きる | 逝ク人守リの矜持 | これまで通りの矛盾したシステムを受け入れ、維持していく道。 |
邦を否定し鬼を殺す → 自決しない | 新たなる時代 | システムを否定しつつも、自らの命で責任を負い、世界の行く末を最後まで見届ける決意。 |
邦を否定し鬼を殺す → 自決する | 可能性に託す未来 | システムを完全に破壊し、人の心の変革を信じて未来を新たな世代に委ねる、自己犠牲の道。 |
このように、『鬼ノ哭ク邦』は単なる勧善懲悪の物語ではありません。「来世が約束されるなら、今の命の価値は?」「救いと絶望は、本当に分けられるのか?」といった、重く哲学的な問いをプレイヤーに投げかけます。その難解さと暗い雰囲気から賛否は分かれますが、心に残る深い思索の体験を与えてくれる作品であることは間違いないでしょう。